『江戸のなかの日本、日本のなかの江戸』刊行のお知らせ

柏書房より、 ピーター・ノスコ、ジェームス・E・ケテラー、小島康敬(編)『江戸のなかの日本、日本のなかの江戸―価値観、アイデンティティ、平等の視点から』が発売になります。全編にわたって翻訳を担当しました。

歴史への熱心な探究心は、ともすると欺瞞の誘惑に駆られがちです。想像力が枯渇すると、ひとは創造力で補おうとします。史料との格闘の果てに行われた場合にはそのような試みが有意義な結果をもたらすこともあるでしょうが、一歩間違えば安直でひとりよがりな語り=騙りに陥りかねません。

本書の執筆陣は関心も方法論も様々ですが、上記の認識では一致しているでしょう。構成は以下の通りです。

 

日本の読者のための序

第1章 十八世紀と十九世紀の価値観・アイデンティティ・平等について

ピーター・ノスコ&ジェームス・E・ケテラー

第2章 トビウオが跳ねるのを待ちながら―江戸の人々が実践した価値観とアイデンティティ

池上英子

第3章 賢兄と愚弟―平田派に見る兄弟間の競争

アン・ウォルソール

第4章 悪ガキであること―江戸時代の子供たちの反抗の倫理

W・パック・ ブレッカー

第5章 近世における個性と集合的アイデンティティの同時発生

ピーター・ノスコ

第6章 ある平田派国学者の再生―鶴屋有節と『加賀鍋』日誌

藤原義天恩

第7章 新たな文化、新たなアイデンティティ―十九世紀に沖縄人・日本人になるということ

グレゴリー・スミッツ

第8章 エロスの情緒性を求めて江戸へ

ジェームス・E・ケテラー

第9章 「性」と「聖」を繋ぐ笑い―パロディ繚乱の江戸文化

小島康敬

第10章 近代日本の奔放なる起源―万亭応賀と福澤諭吉

ウィリアム・M・スティール

第11章 花盛りの物語―大江卓、神戸、そして明治「奴隷解放」の背景

ダニエル・V・ボッツマン

第12章 関係的同一性から種的同一性へ―平等と國體(ナショナリティ)について

酒井直樹

第13章 エピローグ:いかにして近世日本を研究するか―近代の「想像/創造」論を超えて

磯前順一

 

ご覧のように、青森から沖縄まで、そして元禄から明治を通り越して現代までを舞台に、まさに十人十色のまなざしが交錯する地点に、無数の人々の声が響き合う、生き生きとした日本の姿が浮かび上がる趣向となっています。この対話的な歴史書は、権力に裏打ちされた線条的な、「大きな」歴史ではなく、むしろ権力に直面した人々の肉声で織られた、「小さな」物語を伝えます。

歴史学や思想史に関心のある方はもちろん、社会に生きる人々の姿がどのように言語化され歴史となるのか、というプロセスにも焦点を当てる本書は、より広い読者に対して興味深い問題提起を行うものである、と一読者として感じています。

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