『リリアン卿』刊行のお知らせ

国書刊行会より、ジャック・ダデルスワル=フェルサン『リリアン卿―黒弥撒』の訳書を上梓する運びとなりました。

製鉄業を営む裕福な男爵家に生まれたフェルサン(1880-1923)は若くして実家の財産を継いだ後、世界を旅しながら創作を続けました。日本でも有名なかのフェルセン伯爵とも縁戚関係にあるこの伊達男はしかし、作家としてよりも「黒弥撒事件」の首謀者として歴史に記憶されることになります。自宅に少年たちを招き夜ごと破廉恥な行為に及んだとして逮捕、収監されたフェルサンですが、釈放後も自由な生きかたを改めようとはしませんでした。

『リリアン卿』発表の頃のフェルサン(1905年)

『リリアン卿』発表の頃のフェルサン(1905年)

『リリアン卿』はまさにその「黒弥撒事件」を題材にした代表作ですが、決してただの実話小説ではありません。主人公のリリアン卿は、スコットランドの居城で孤独な少年時代を過ごした後、退廃的な作家ハロルド・スキルドにその資質を見出され、貴族や芸術家の崇拝を一身に受ける悪魔的な青年へと成長します。たしかに「黒弥撒事件」は作中で重要な意味を持ちますが、作品は唯美主義の落とし子とでもいうべきリリアン卿の生涯にわたる、絢爛かつ悲劇的な伝記なのです。

ところでスキルドがオスカー・ワイルドの戯画であることは、すぐに明らかになるでしょう。この作品はワイルドについて書かれた最初期の小説であるとも言われています。ほかにも世紀転換期の爛熟を彩った多くの人物や流行が、様々な形で作品に影を落としています。また同性愛の問題が、正面から扱われていることにも注目してよいでしょう。

『リリアン卿』函と本体

『リリアン卿』函と本体

いろいろな視点から読み解けるこの小説について語るべきことはまだまだありますが、ここから先はぜひ実物をお手にとっていただければと思います。装丁は柳川貴代さんにお願いすることができました。パリでの初版から111年、これまで日本に紹介されることのなかった作品、そしてフェルサンというキマイラに出会えたことは、訳者としてこのうえない僥倖です。

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